わたしたちの好きなひと
 Vサインもガッツポーズもしなくなった恭太。
 だけど、わたしはいまの恭太のほうが好きだ。
 むかし、恭太がゴールを決めるとあがっていた歓声よりも。
 いま、恭太がボールを奪うと湧きあがる仲間たちの興奮のほうが、恭太にはうれしそうだから。
 うれしそうな恭太が、好き。
 ふられちゃったけど。
 わたしは今でも恭太が好きだ。

 * * *

 ギギーッと、()びた重たい音をたててドアが開く音。
「なーにしてんだ、よ」
 低く柔らかい声。
 振り向くと、肩にふれそうなワンレンが風になびくのを耳元に押さえつけながら、掛居(かけい)が目をすがめていた。
 白いシャツも黒いズボンも着くずさず。
 学校紹介の表紙の子のように制服を着ても、掛居がまったく優等生に見えないのは、もちろんわたしより長い髪のせいもあるだろうけど。
 いつのまにかスカートのヒダが消えてしまう、わたしみたいにズボラな子には絶対にまねできない掛居のたたずまい。
 椅子に座るときにはズボンの膝が伸びないように少し引き上げたり、ポケットにケータイを入れなかったり。
 きちんとハンカチを持っていたり。
 要するに掛居は《ふつうの男の子》じゃないから。
 テレビドラマでアイドルの子が扮する学生みたいにリアリティーがないんだと思う。
 男子高校生を演じている的な?
 だれも気づかないけど、わたしは知っている。
 だって5年間も仲良くしてもらっている《親友》だから。
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