わたしたちの好きなひと
「いい風だな。ここは本当に…気持ちいいや」
 掛居のアゴの横で揺れるサラサラの髪。
 4階の高さを吹いてくる風にゆれて、すごくキレイ。
「シューコさん」
「はい?」
 掛居はわたしの前までくると、わたしをわざとらしくサンづけで呼んで、あからさまにため息をついてみせた。
「おまえねえ……。修学旅行委員会、忘れてんじゃないよ」
「えっ! うそ。今日だっけ?」
「だっけ…じゃない。シューコ来ないから、おれがひとりで居眠りしてきた」
「うっひゃぁ。ごめーん」
 マジに忘れていた。
 でも、でも……。
「で?」
「で…って――なによ?」
 わかっているくせに掛居は気づかないふりをする。
 いじわるだから。
 風にゆれる髪をかきあげながら、わたしの横でグラウンドを見おろす掛居はもう返事はしないと態度で言っている。
「おー、やってる、やってる。本当にここからだと、よく見えるな、グラウンド」
「……ぅん」
 芸術棟の屋上からサッカー部のテリトリーの小グラウンドがよく見えることを発見したのはわたしだ。
 錆びついて重いドアのあちこちに自転車用の油を差してみたりして、こっそり恭太を見つめられる特等席にした。
 でも、そうじゃなくて。
「ねえ、今年はどこだって?」
 聞いてるのに掛居ったら。
「お。…あれ、あの緑のウエア、恭か?」
「…うん」

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