わたしたちの好きなひと

 * * *

「めずらしいこともあるもんだ」
 1時間目がおわって。
 わたしが掛居の机の横に立つと、掛居はわたしを見もしないで言った。
 そうだね。
「おやぁ? 稲垣。掛居くんになんの御用?」
「なんだよぉ、稲垣。ダンナのお迎えかぁ?」
 あーもう。
 ひとのことは放っておいて。 
 窓際のうしろから2番目。
 それはつまり、恭太の前の席。
 ふだんは、わたしから近寄ることはない。
「どした?」
 掛居は冷やかされても平然と笑ってくれる。
 まぁ、わたしだって誰になにを言われたって平気だけど。
 聞かれたくはない。
 (はぁ…)
 恭太は騒ぎには知らん顔で、机に頬杖をついて窓の外を見ている。
 今日は朝からくもり空。
 すぐ手が届きそうなところを、小さな鳥が飛んでいく。
 雨の日も風の日もグラウンドを走りまわる恭太は、こうやってよく窓から外をながめている。
 土のグラウンドしかない環境であと1年。
 どうぞ、空の神様たちが恭太にやさしくしてくれますように。

「シューコ?」
「あ…。うん」
 掛居も机に頬杖をついた。
 (いじわるっ)
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