わたしたちの好きなひと
 わたしが話しづらそうにしてしまうと、掛居は絶対に助けてくれない。
 たとえ察していても、だ。
 (うわぁああ)
 文庫本を取り出した。
 ますます話しづらい雰囲気にするわけですね、王子。
「ねえ! ちょっと、あっち…行こ」
「なんで?」
 そうくると思ったよ。
「ここじゃ、話しにくいのっ」
 耳元で、うんと小声で言ったのに。
 掛居がゆっくりと背筋を伸ばす。
 (いや…だ)
 恭太の目が、その掛居の背中をちらっと見た。
 (ああ…)
 やっぱり、どこか…廊下とかで会ったときにすればよかった。
 掛居が椅子の背にもたれて、気だるくズボンのポケットに両手をつっこんだ。
「この3日間、電話かけまくりの、頭、下げまくり」
 えっ?
「シューコ。おまえねぇ、宝塚ってチケットを取るのがめっちゃ大変だって…知ってるよな?」
「…………」
 頭のなか、まっ白。
 なん…だって?
 タカラヅカ?
 チケット?
「しかも今回は日付の指定付き。最後の手段で、じーさまのところに出向いて、事情を話してコネで4枚取ってもらったけど」
 は…い?
 なに? なにを言いだした?
「この先おれの人生は真っ暗だ。じじいに借りをつくるなんて」
「…………」
「チケットなかったら、絶対に委員会パスしないからな。も、いつか必ず返してもらうぞ、この借りは。おれはもう心身ともに疲れはてた」
 うそっ。
 やっぱり?
 それ自由行動の話?
< 61 / 184 >

この作品をシェア

pagetop