わたしたちの好きなひと
「先生」
「はい。掛居くん?」
「宝塚には美術館と劇場があります。それぞれまったく目的がちがうでしょうし、まず目的地まで希望を聞いて。それからまとめたほうが手間がないかと思います」
「なるほど。…では委員のかたは各々に具体的な訪問地の要望を早急に出させて、次の会までに掛居くん、まとめてくれますか」
「はい」
「第一案変更を余儀なくされたほかの生徒のフォローは各組の委員の皆さんが、合流できる班なども示して決定まで導くように。――では」



「いったい、どうなってんだ?」
 掛居がつぶやいて、廊下の窓に寄りかかる。
「…………」
 雨…降ってきちゃったなぁ。
「とりあえず、ここから先は岡本くんにも緘口令を出さなきゃな。あれ、ざっと21人はいたからな。おれは引率者なんかごめんだ」
 恭太たち、この雨のなかを走ってるんだろなぁ。
「シューコ。おれ、グラウンドの岡本くんのところに寄るけど…来る?」
「ううん」
 行くわけないじゃない。
 知ってるくせに。
「うじうじ、うじうじ! ……いつまでこんなの…続くんだ」
 掛居は、窓の外、空から落ちてくる雨に向かって言っているけど。
 わかってるよ。
 わたしに言ってるよね。
「…じゃ」
 ごめんね。
 気づかないふり、するね。
 わたし、ばかだから。
 ふられちゃったのに、まだ恭太が好きだから。


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