わたしたちの好きなひと
 恭太……。
「岡本なら…しようがないよね」
 知らない子にやきもちを妬くのは、いやだけど。
 岡本はりっぱなマネージャーだ。
 だれよりも恭太のそばで、恭太のことを考えてくれる子だ。
 (だからね)
「恭太」
 わたし……泣いてない、よ。
「恭太……」
 恭太。恭太。恭太。
「きょう、た――――ぁ!」
 全然聞こえないでしょう?
 だから、呼べる。
 だから屋上の片隅が、わたしには似あってる。

 銀色の背中がグラウンドを突っ切って。
 マネージャーのいる……、岡本のいる体育館の影に走って消えた。
 いま体重計にのったら、きっと水分で3キロは重い…なんて。
 まぬけなことを考えながら、びしょぬれの身体で錆びついたドアを押し開けて。
 踊り場に出ると、ふわっと頭に白いものが落ちてきた。
「ばか?」
 掛居が無表情に言うから。
 うん…て。
 笑って答えるはずだったのに。
「…………」
 わたしの唇は震えて言葉なんて出てこない。
「ばかやろう」
 わたしの代わりに、ちゃんと言葉にしてくれた掛居にうなずいて。
 乱暴に頭をふかれながら、わたしはずっと雨の降りやまない目で、白いタオルにゆれる豹のマークを見つめていた。
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