わたしたちの好きなひと
 いつのまにか、ヘディングのせいで跳ねてた前髪も、まっすぐだ。
「早く高校生になりてえな」
「……うん……」
 中学3年生の1年間が、こんなに中途半端な1年だなんて。
 きっとみんな知らなかったよね。
 夏から先はもうみんな次の場所を探している。
 いっしょにいるのに。
 みんな、それぞれ違う方向を向いている。
「高校かぁ……。みんな、どうするんだろね」
 いままでなんでも、おもしろおかしくしゃべってきたのに。
 こんなに不安でたまらないのに。
 受験する学校のことは、みんな隠してる。
「松井も原っちも、なんだかピリピリしててさ。テレビの話なんかすると、いいねえ、デキるひとは…とか言うんだよ。…なんか、いやだな」
「ちぇっ。どうせおまえ、女には甘いんだろ。いまみたいに『あんたには無理!』とか言ってみな。ひとりふたり死ぬかもよ」
「恭太ってばっ」
 本当に。
 恭太がいなかったらと思うとゾッとする。
「掛居は全然わかってくれないし、さ」

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