わたしたちの好きなひと
「そのへんの私立、全部、恭太には無理」
 (あ…)
「ごめん。言いすぎた」
 わたしもイライラしてるのよ。
 自分の不甲斐なさに。
 英国数、3科目の私立はいいの。
 でも一高を本命にするならあと25点。
 苦手な暗記科目が克服できないなら、得意な国語で上乗せしなきゃならない。
 80点を95点によ?
 まちがえてもいいのは1問だけだなんて。
 そんなプレッシャーを抱えて試験なんて受けられない。
 だったら全教科、底上げしなきゃならないの。
「受験は競争なんだよ。恭太も自分のレースで勝ちなよ」
「きっつい女……」
 恭太がぷいっと立ち上がる。
「だから…ごめん、て」
 このごろ勉強、勉強で、わたし…余裕がないから……。
「何度もあやまるな」
「だって。八つ当たりした……。ごめん」
「…………」
 唇はふてくされて尖っているのに、足は見えないボールをドリブルしてる。
 それにイライラするって、わかりなさいよ、もう。
「あーあ。サッカーしてえなぁ」
「それは…わかる」
 わたしだって気づいてるんだ。
 このごろ、恭太、いっつも赤い目をしてる。
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