わたしたちの好きなひと
「ごめんなさい。掛居ひとりに任せてしまいました。許して」
「――――よろしい」わたしが下げた頭をぽんぽんと叩く。
「最初からこういう態度がほしかったね、シューコくん」
「はい。申しわけありません」
 (ちぇっ…)
 そっぽを向いたら、その頭をグラウンドのほうにもどされた。
「京都、大阪、神戸で、大阪が連泊。自由行動な」
「あー、岡本が先輩たちから聞いてるって言ってたとおりか」
「…てか、学校の沿革に書いてあっただろ。入学するとき読まなかった?」
 う。
 読んでません。
「岡本くん……、なんだって?」
「…………」
 それが、わたしが修学旅行に浮かれていられない理由。
 サッカー部の大会は、勝ち進んでいけば修学旅行と日程がかぶる。
「ん? 積立金、いつ返してくれるのかしら、だって」
「ああ。言いそう」
 掛居がくつくつ笑う。
 その目が追っているのは恭太だけだ。
 わたししかいないから見せる、掛居の本気。
「行かないつもりの恭太とは相談もできないから。シューコ、頼りにしてるぞ」
「……いいけど。また問題、おこさないでよ」
「だれに言ってんの?」
「目の前の。問題児に。でっす」
 なにしろ中学の修学旅行は大変な騒ぎになった。
「あはははは」
 ほがらかに笑った掛居が、シワのよったわたしの眉間を人指し指で突いた。
「おれたち――2度目の修学旅行だな」
「…………」
 掛居のいじわる。
 今度はちがうよ。
 中学のときとはもうちがう。

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