わたしたちの好きなひと
「どういうこと?」
 掛居、いるじゃない。
「ああ。お調子こいて便乗してきたやつらが、乗り遅れたんだよ」
「ひょー。うちはみんな帰ってきたんだろうな、掛居」
「もちろん。記念写真もばっちりだ。あとで回すな」
「ひゅーひゅー」「うぉぉお」
 ほっとしたのか、とたんにはしゃぎだした男子たちに背を向けて、掛居がわたしの目の高さに差しだす両手。
「ご苦労さん」
「――――ふざけんなっ」
 心配させて。
 許さないからねっ。
 でも掛居が楽しそうに笑ってるから。
 仕方なく胸の前で小さくハイタッチ。
「ただいま。ありがとな、シューコ」
「なんで事前に言わないのよ、ひどいじゃないの」
「悪事の片棒は担ぎたくないだろ?」
「もうたっぷり、担いだわ!」
 (そうだ!)
 みんなは?
 恭太は?
 無事に着いてるの?
「恭太! ――恭太?」
 背伸びして、頭だけ飛び出しているはずの背の高い姿を探す。
 一瞬、しん…としたざわめきのなかから、あいうえおの出席番号順、5人目に帰ってきていた恭太の頭――ゆっくり振り返る。
 とびはねた前髪が見えた。
「――――いるよ」
 よかった。
 安心したわたしは、あいだにいた井上くんを押し退けてきた岡本に、腕がもげそうな力で引きずられていた。
「あんた――――、いま、なんて言った?」
 えっ……。
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