御曹司は懐妊秘書に独占欲を注ぎ込む
「心配しなくても口に入れても安全なものを選んだ」

 ところが先に発言した彼の不意打ちにとっさに言葉を失う。そして、ゆっくりと視線をこちらに向けた社長と目が合った。

「ち、違います! そんな心配をしたわけではなく、せっかく綺麗なものをいただいたのに芽衣があまりにもすごい扱いをするので……」

「気に入ってくれていることくらいわかる」

 意外、と言えばいいのか。彼の反応に、私個人としても母親としても粗相がないよう張り詰めていたものがホッと緩む。

 社長の前だから? ううん、芽衣が生まれて外に出たり、誰かに会うときはいつも気を使っていた。

「そんなふうに言ってもらえて嬉しいです」

 本音をぽつりと漏らすと社長は再び紙袋の中に手を入れる。

「これは早希に」

「え?」

 社長から差し出されたのは、小さな花束だった。全体的にピンクや赤の色合いで仕上がっていてずいぶん可愛らしい。

 存在をとくに主張する三本のピンクのガーベラに意識がいく。そっと花びらに触れ、目を細めた。

「嬉しいです。ガーベラ好きなので」

「知ってる」

 間髪を入れずに返ってきた言葉に私は目を(しばたた)かせる。彼にガーベラが好きだと話した覚えはない。

「よく飾ってたろ」

 目で訴えかけると答えるように社長は指摘した。彼が言っているのは社長室に活けていた花だ。

 来客もあるので定期的に季節の花を飾るのも秘書の仕事のうちのひとつだった。君島さんから引き継ぎもっぱら私の役目になって多少の好みは入っていたと思う。
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