御曹司は懐妊秘書に独占欲を注ぎ込む
「いつまでも社長呼びは芽衣も混乱するんじゃないか?」

 そう言われると折れるしかない。子どもは意外とよく聞いているし、なにより私はもう彼の秘書ではない。

 私はおもむろに唇を動かす。

「明、臣……さん?」

 照れも入って消え入りそうになったが、ちゃんと彼には届いたらしい。

「ん」

 短く返事をされ頭を撫でられる。気恥ずかしさを消そうと、わざとらしく目線を逸らし今度は私から話題を振った。

「そうですね。この前、尊さんとまぎらわしかったですし」

 これも社長……明臣さんを名前で呼ぶひとつの理由になる。自分の中で腑に落ちると私に触れていた彼の手が止まった。

 どうしたのかと上目遣いに見ると、明臣さんはあからさまに不機嫌な面持ちになっている。

「岡崎のところは、すぐに辞めろ。なんなら俺が話を通しておく」

「……え?」

 どうして名前で呼ぶ話から私が仕事を辞める話になっているのか。戸惑う私をよそに明臣さんは立て板に水のごとく続ける。

「早希はなにも心配しなくていい。早希と芽衣の生活費も俺が出す。なんなら俺のマンションに引っ越してこい。ここよりも広いし芽衣にとっても」

「ちょっと待ってください!」

 強引に話を進める明臣さんに口を挟んで制止する。沸々(ふつふつ)と湧き起こる感情を鎮めつつ私は静かに説明する。

「……たしかに、ここはそんなに広くないかもしれません。仕事もフルタイムのようにはいかないですし、いつも芽衣の相手ができないから保育園の一時保育やファミリーサポートも利用しています」
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