御曹司は懐妊秘書に独占欲を注ぎ込む
「お互いに譲る気がないならしょうがないな」

 観念したような声で社長は結論づけた。

 あ、そうか。リビングテーブルの方に座ればいいのか。無理してこちら側にいなくてもいい。

 そう納得している私の方に彼が手を伸ばしてきた。

 なんで、どうしてこんな状況になったの?

 結局、私はミニソファで社長と並んで座る事態になった。彼の右側に腰を下ろし、精一杯距離を取ろうとするも腕や膝など今にも触れそうな近さに社長がいて緊張してしまう。

「早希」

 カップを両手で持ち、身を縮めていると声がかかった。横を向けば、整った彼の顔が視界に映る。

「そんなに嫌なのか?」

 怒っているというより寂しそうな聞き方に私は背筋を正す。

「い、嫌というか。その、社長は芽衣の父親という認識の前に、私にとっては職場の上司という印象が強くてですね……」

 つまり恐れ多いのだ。今は芽衣がおらずふたりだから余計にそう感じてしまう。

「俺はもう早希の上司じゃないから下手に気を使わなくてかまわない」

「そうは言われましても」

 簡単に割り切れるなら苦労はしない。一線を越えてしまい、次に再会したのが子どもの両親としてなんて怒濤の展開もいいところだ。

 むしろ社長はどうしてこんなにも順応性が高いんだろう。社長だから?

「なら、まずは名前で呼んでくれないか?」

 できない子どもを指導するように彼は優しく提案した。目を白黒させる私に社長はさらに付け加える。
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