御曹司は懐妊秘書に独占欲を注ぎ込む
「次は早希とふたりで過ごして、距離を縮めたいんだ」

 不敵な笑みを浮かべて告げられ、頭が真っ白になる。彼は空いている方の手でゆるやかに私の頬を撫でてきた。

 たったそれだけのことに顔が熱くなる。この姿勢はなんとなくあの夜を連想させた。

 それは、私だけなのかな。

 おもむろに顔を近づけられ、葛藤を抱えながらも目を閉じて受け入れる。なんだかんだで明臣さんを拒めない。

 慣れた調子でキスを進める彼に応えたくなるのと溺れるのが怖い気持ちが心の中でせめぎ合う。明臣さんにとっては、これくらいのキスはなんでもないことなのかもしれない。

「早希」

 身を固くしているとキスの合間に低い声で名前を呼ばれる。優しくて、愛されていると錯覚しそうな響きだ。

 そっと目を開けると切なそうな瞳に私を映す彼と視線が交わる。ぎこちなく引き結んでいた唇の力を抜くと、その隙間に舌を滑り込まされ、あっという間に口づけは深いものになる。

「んっ」

 膝に力が入らず、倒れ込みそうになるのを明臣さんに正面か抱えられる。自分が今、どんな体勢でいるのかはあえて突き詰めない。

 人間、一度蜜の味を覚えると、また次も無意識に求めてしまう。彼とのキスもまさしくそんな感じだった。

 明臣さんの腕の中にまんまと収まり口づけを交わしながら、溢れてくるのは切なさだ。苦しくて胸が締めつけられる。

 唇を重ねるだけではなく明臣さんは空いた手を私の頬を添えたり、頭を撫でたりとまるで恋人みたいに扱う。
< 69 / 147 >

この作品をシェア

pagetop