御曹司は懐妊秘書に独占欲を注ぎ込む
「次は彼女自身に合うものを」

 ところが私の葛藤を無視した指示に目を剥く。

「明臣さん、もうこれ以上は」

「芽衣は俺が見ておくから。遠慮せず早希の好きなものを選べばいい」

 そういう問題ではないんです、と続けそうになって私は言葉を飲み込んだ。こうなってしまってはきっと明臣さんは譲らない。

 秘書をしていたので、よくわかる。なによりここで頑なに拒否するのは彼にとっても店にとってもいいことはない。

 そこで考えを改め、私は作戦を変える。

「わかりました。では一着だけ選びますね」

 相手の要求をひとまず受け入れ、その中で最大限に譲歩した条件を提示する。交渉術の基本だ。秘書として取引先や来客相手に使っていたことを、まさか社長に実践するとは。

 明臣さんは私の目論見にあっさり気づいたらしく含んだ笑みを浮かべた。

「早希が気に入るものなら何着でもかまわない」

 明臣さんの発言に、スタッフから『優しい旦那様ですねー』と悲鳴に似た声があがる。その台詞は今日、別の場所でも聞いた。

 こうなったら決断をさっさとしよう。色々と勧められる中で、私は数量限定だという新作の淡いブルーのワンピースを選んだ。

 ボディラインが綺麗に見えるシルエットで、洗練された上品さが漂う。似合うだろうかと不安だったが、スタッフそして明臣さんの後押しもあり試着してそのまま着ていく流れになった。

 それに合わせた靴やアクセサリーまで提案され、コーディネート一式を購入してやっと店を出る。
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