御曹司は懐妊秘書に独占欲を注ぎ込む
『……はい』

 私はぎこちなく答えた。

 とはいえ、なんて紹介するの? 私と彼は結婚していないのに。それを言い出したら芽衣の存在は彼の両親に受け入れてもらえるんだろうか。

 私は自分の腕にぎゅっと力を込める。そういう理由もあって明臣さんは私に結婚を提案してきたんだろうな。

 さっきの日比野さんたちに対しても、こちらから私の立場を明確には紹介できなかった。彼が結婚にこだわる理由は、私が考えるよりもっと複雑な事情が絡んでいるのだとようやく理解する。

 そういえばここに来てから明臣さんに結婚の話は持ちかけられていないな。

 そのとき、突然やや乱暴にドアの開く音がした。深夜だからかやけに音が耳をつく。

 そちらを見ると、ベッドルームに繋がる扉のところになぜか慌てた様子の明臣さんが立っていた。彼は私と目が合うと静かにこちらに歩み寄ってくる。

「ど、どうされました?」

「いや。目が覚めたら早希と芽衣がいなかったから」

 彼は前髪を掻き上げ、大きく息を吐いた。

 正直、そんなに驚くこと? こんな明臣さんを見るのは初めてだ。仕事ではいつも冷静だったのに。

 私は小声で言い訳する。

「すみません。芽衣が泣きだして。その、明臣さんを起こすのも悪いと思ったので……」

 腕の痺れを(やわ)らげるため芽衣を抱え直そうとすると、近くまで来た明臣さんがすかさず芽衣の頭の下に腕を入れ抱き上げた。
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