御曹司は懐妊秘書に独占欲を注ぎ込む
「わっ」

 小さく悲鳴をあげて彼の腕の中に収まり無機質なシーツの感触から一転、大きな手のひらと体温を感じてさすがに混乱する。

 そんな私をよそに明臣さんは私の頬をそっと撫で、至近距離で視線を合わせてきた。

「また、いなくなったかと思ったんだ」

 彼の口から飛び出た言葉に目を見張る。“また”というのがいつのことなのかいちいち尋ねるまでもない。私は瞬きを繰り返し、わざと目線を下げた。

「……あのときは、そうするのが一番だと思ったんです」

 むしろ他の選択肢なんてあった? 朝起きて彼と顔を合わせてなにを話すの? お互いになかったことにしようって確認しあうべきだった?

 記憶とともに苦い感情が溢れ返って顔をしかめる。声にしたら、止まらなくなりそうで心の中だけで必死に留めた。

 いいんだ。明臣さんがどう思っていても私は後悔していない。それだけは変わらないから。

「俺がいない間に早希が仕事を辞めたのは、関係を後悔しているからだと思った」

 ぽつりと呟かれた本音に、私はおそるおそる視線を戻す。彼の灰色がかった瞳が静かに私を捉えていた。

 もしかして彼なりに自分を責めていたの?

「……妊娠してすぐに悪阻が始まって……どっちみち今まで通りの仕事はできないと思ったんです」

 たどたどしく私は説明していく。

 あの夜の出来事は、日が経てば次第に気持ちは落ち着きを取り戻せた。
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