御曹司は懐妊秘書に独占欲を注ぎ込む
「ずいぶんと悩ませたんだな」

 とめどなく一方的に話す私に、明臣さんは切なそうに感想を漏らす。私は小さくかぶりを振った。

「いいえ。仕事のことも含め、全部勝手に決めてしまってすみません。……でも私、仕事は本当に好きでした。明臣さんの元で働けて嬉しかったんです」

 そこで一拍間を空ける。不思議そうな顔をする明臣さんに私は笑いかけた。

「優秀だと言って秘書として必要としてもらえて……認められた気がしました」

『君が採用試験で一番優秀な成績だった』

『秘書が有能で助かっている』

「私、勉強しかしてこなかったから」

 ギスギスした関係の両親を前に子どもながらに考えた。とにかく勉強を頑張って、いい子で優秀でいたら父と母はふたりの自慢の娘だと、仲良くしてくれるかもしれない。

 浅はかで単純。私がなにをしたところで両親の関係には影響しないと今ならわかるのに、あの頃は必死だった。

 結局父は出て行き、母と離婚。皮肉なことに成績が優秀だった私は、母子家庭となった母に感謝された。

 特待生として入学料や授業費などの免除を受け、高校や大学に進学し、そこでもとにかく勉強に費やした。その分青春と呼べる経験はごくわずかで、我ながら面白みのない人間だと思う。

 茜みたいな友達もいるし、とくにコンプレックスは感じていなかったけれど、千葉航空機株式会社に入社し社長の秘書に抜擢され、少なからず今までの努力が報われた気がした。

 だからこそ余計に……。
< 96 / 147 >

この作品をシェア

pagetop