もしも世界が終わるなら

 どこに向かっているのか皆目見当もつかない。棚田からぐんぐん進み、数軒が身を寄せ合うように建つ集落の間をも進む。

 歩き詰めだった彼がようやく立ち止まったのは、趣のある家々の中にある真新しい住宅の前。振り返った彼は口の端を上げ、残酷に告げる。

「覚えてる? れんげ畑。それがここだよ」

 目を見開き、辺りを見渡す。ここは思い出の場所とは程遠い。れんげ畑は古い家々に囲まれた秘密の場所みたいな、広い畑か田んぼのような場所だった。

 今は見ることさえなくなった、無数に咲き乱れるれんげ草。風にそよぐ可憐な草花。ここにもその姿は見えない。

「驚くのも無理はないさ。れんげ畑の上に、俺が家を建てたんだから。ここ親父の土地だからね」

『親父の』青年の言葉が、耳鳴りみたいに耳にこびりつく。れんげ畑の所有者が誰だったのか、当時は深く考えてなどいなかった。

 ここ一帯の地主と言えば……。
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