もしも世界が終わるなら
「きゃ」
突然手を掴まれ、そこから恐怖が背筋を這い上がる。振り払おうとしても、力では敵わない。
「上がっていってよ。お茶くらい出すから」
口の端を上げ、笑みを向けられたのかもしれないが、怖ろしいとしか思えない。彼は変わってしまった。風貌もなにもかも。思い出のれんげ畑の上に、無情にも家を建ててしまえるくらいに。
「隆成! なにしてるんだ!」
背後から怒鳴り声が聞こえたが、振り返ることは叶わなかった。掴まれていた手を引かれた反動で体が近づき、全身の毛が逆立つような嫌悪感に襲われる。
『隆成』って誰? 浮かんだ疑問に答えをくれる人はいない。
「お前!」
近づいてくる声に縮こませていた体は、乱暴に突き飛ばされる形でよろめいて別の腕に支えられる。
「危ない! 大丈夫?」
気遣う声に、状況がわからないまま小さく頷く。私を突き飛ばした彼は、鼻先で笑って言う。
「なに熱くなってるんだよ。お前の『ちいちゃん』が現れたから、呼んでやったんだろ」
棘を纏う言葉には返事もせずに、新たに現れた人物に手を引かれ強引にその場から離れさせられた。