もしも世界が終わるなら

 なにも言わずに歩き続けるのは、先ほどの青年と変わらないであろう年齢の男性。なにがなんだか飲み込めなくて、連れて行こうとする彼の手を振り払う。

「あの! あなたは誰なんですか?」

 田舎道の往来で立ち止まり、初めて彼と向き合う。スラリと高い身長を見上げ、可能な限り睨み付ける。

 目が合った先の彼は目を見開いて、それから目を伏せてしまった。その姿に何故だか胸が切なくなる。

「椎名穂高。会いに来てくれたわけじゃ、なかったのかな」

 消えそうな声をなんとか拾い上げ、弱々しく反論する。

「だって、さっきの人が……」

 思い返し、はたと気付く。
 ああ。彼は、ひとことも『自分が椎名穂高だ』とは言っていない。

「兄貴にからかわれたんだよ。からかうよりも、ずっと悪質だったけど」

 頭にクシャリと手を入れ、ため息を吐く。その姿は見覚えがある。困ったときに『しいちゃん』がしていた仕草だ。
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