今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
ローテーブルにグラスを置いて、バッグの中から、こんなこともあろうかと持参してきたノートパソコンを取り出す。

もくもくと仕事をこなし、気がつけば二時間近く経っていた。時計を見ればもう二十三時。

『必ず帰る』とは言っていたものの、こんな時間まで待っていたら、逆に迷惑にならないだろうか。

帰ろうにも鍵を預かってしまったし――身動きが取れず途方に暮れていると。

ふとバッグの中に入れていた携帯端末が、ブブッと震えた。

彼からの連絡かもしれない。慌てて端末を手に取ると、ディスプレイには見たくもない名前が表示されていた。

――【母親】。

盛大なため息が漏れる。こんな時間に電話なんて、いったい何事だろう。

放っておいても面倒なことになるだけなので、仕方なく応対する。

「はい。杏ですけど」

『杏? 今ね、長門(ながと)さんから連絡があって、いい式場の予約が取れそうなんですって!』

「またその話!?」

長門さんとは『セフレ程度ならいてもらってもかまわない、俺も好きに遊ぶから』と言い放った例のお見合い相手のことだ。

というか、お見合いは断ってもらったはずなのに、どうして式場の話になっているのだろう。
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