今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
あのとき、声を掠らせながら必死に平気だと訴えてくれていたことを思い出す。

私のことを心配してくれていたことも。どう考えても無事でないのは自分のほうなのに。

「……もう、大丈夫……なんですか……?」

「ああ。ひと通り検査もしてもらったけれど、どこも悪くなかった」

私の頭をいいこいいことなだめるように撫でる。彼の穏やかな笑顔が、こんなにも愛おしいと思ったことはない。

「君も、大丈夫だった?」

私がこくこくと頷くと彼はホッと息をついた。私が無事だと聞いていただろうに――ああ、私と同じで、自分の目で確かめるまでは不安だったのかもしれない。

「……よかった。本当に」

彼が心の底からの安堵を口にする。

どちらからともなく顔が近づき、唇が重なった。

こうして再び、彼に触れることができて、本当によかった。

私は彼の隣に腰掛け、涙が止まるまでその胸に縋りつくように顔を埋めていた。

「ねぇ、杏。俺はね。君が階段から落とされたとき、君のクッションになって死ねるならそれでもいいかなって思ったんだよ……ちょっと重いかな?」

全然笑える話じゃないのに、彼は楽しそうにクスクス笑っている。

私は彼を睨みつけ「バカ!」と叱った。
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