今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
「本当だな?」

息子の甘言に乗せられかけている父親を、母親はギンと睨んだ。

「あなた! なにを納得しているんですか! そんなに簡単な問題ではありません!」

ちなみに、彼のご両親の仲はあまりよくないようだ。

家柄を重んじる母親と、経営する病院のことを第一に考える父親。

やり取りは徐々にエスカレートし、夫婦喧嘩へと発展。見かねた見合い相手のご両親が仲裁に入る始末だ。

呆然とやり取りを眺めていると。不意に彼が私の肩を抱き寄せた。

「おいで。帰ろう」

どうやら早々に立ち去りたいらしい。言い争う両親を無視し、私を連れて部屋を出る。

「あのまま放っておいて、いいんですか?」

「かまわないさ。伝えたいことは伝えた」

料亭の外に出ると、四月の中旬にしては気温が低く肌寒かった。曇天模様で風も冷たい。

ずっとトレンチコートを着たまま室内にいたから、寒暖の差を余計に感じてぶるっと身を震わす。

すかさず隣にいた彼が、私を抱く手に力を込めた。

「大丈夫か? 寒い?」

「大丈夫、です……」

「早く車に戻ろう。体を冷やしてはまずい」

私の肩をさすり、風から庇うように歩いてくれる。

そういうところだけ、変に優しくてドキリとする。
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