今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
もちろん、患者は映らないように撮影する。

けれど、西園寺先生は「せっかくだから、手だけでも共演する?」と言って女の子の手を取り、聴診器を耳にはめながらにっこりと微笑んだ。

女の子の目はハートマーク。カメラマンもグッと親指を立てる。

本当に女の子の前では調子がいいんだから……と私が呆れ気味なのはさておいて。

撮影は無事に終了。インタビューも完了して、あとは机上でまとめるだけだ。

「ご協力いただき、本当にありがとうございました」

人だかりができてしまった病棟を出て、入院棟の入口で頭を下げる。

「写真と記事ができ上がり次第メールでお送りしますので、確認をお願いします」

「りょーかい」

「それではまたご連絡差し上げますね。あと、それからこれ」

私はおずおずと彼に封筒を差し出す。中には彼からもらったタクシー代一万円が入っている。

彼が手に取った瞬間逃げ帰ろうと思ったら、勘のいい彼は笑顔で「いらない」と断って受け取ってすらくれなかった。

「えっと……中身確認してくれないんですか?」

「どうせこの前のタクシー代だろう? それは君にあげたものだから」

「ですが……」

「だったらそのお金で食事にでも誘ってくれる?」
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