今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
「えっと。具体例ではなく概念的な感じでお願いします」

咳払いをして照れ隠しする。

西園寺先生は「んー」と考える顔をした。その顔も絵になっていてなんだか悔しい。

「ポジティブな人。逆境の中でも前を向いて進める人。今を大切にする人、かな」

答えながら、すこしだけ鋭い目つきをして見せてくれる。不覚にもドキリとしてしまった。

「俺の仕事は命を救うことだから。救われたその命で、今を一生懸命生き抜いてくれたらうれしいかな」

むむむむ。医師らしくもあり、誠実さも感じられて、読者の背中を押してくれる見事なフレーズ。記事の締めのひと言に決まりだ。

「ありがとうございましたー! 撮れ高バッチリでーす。次に行きましょうか!」

カメラマンさんが大喜びでカメラのレンズキャップを閉じる。

撮影終了まであと三十分。できれば二パターン目は治療風景など、医者らしい一枚を取りたい。

西園寺先生に相談したら「了解」と言って病棟に連れていってくれた。

先日の三つ編みおさげの患者さんに協力をお願いして、病室のベッド脇で回診している様子を撮らせてもらうことになった。
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