ハージェント家の天使
 マキウスは道を譲ると、驚いたモニカの腕を引いて端に寄らせたのだった。

「じゃあな! じじい!」
「バイバ〜イ! おじいさん!」
 中から出てきたのは、10にもならないような小さな男の子達だった。
 薄汚い格好をした彼らは、モニカ達に脇目もふらず走り去っていった。
「みんな、まってよ〜!」
 すると、他の男の子達から遅れて、慌てながら店の中から出てきた男の子がいた。
 慌てていたからか、よく前を見ていなかった男の子は、モニカを庇うように扉近くにいたマキウスにぶつかってしまった。
 その衝撃で、男の子は尻餅をついたのだった。
「いたたたた……」
「大丈夫ですか?」
 すかさず、男の子の身体をマキウスが助け起こす。
 男の子は鼻を押さえながら、マキウスを見上げたのだった。
「だいじょうぶです。ごめんなさい」
「次からは、よく前を見て下さい」
「はい。ごめんなさい」
 男の子はマキウスに頭を下げると、そのまま去って行ったのだった。

 子供達が走り去った方を見ていたモニカは、不意に小さく声を上げて笑ってしまった。
「マキウス様って、子供に優しいですよね」
「そうですか?」
「はい! 今の子もちゃんと助け起こしましたし、子供がお好きなんですか?」
 以前も、2人で婚姻届を提出しに行った際、マキウスはニコラをあやしながら、モニカを部屋に迎えに来ていた。
 アマンテの話だと、マキウスはアマンテがニコラを見ている時に、たまにニコラに会いに来ては、顔を見たり、抱き上げたり、笑わせたりしているらしい。

 マキウスは考え込んでいたが、やがて「そうかもしれません」と肯定したのだった。
「子供がというよりは、自分より小さき者達を、守らなければならない、愛おしい者達と思っているのかもしれません」
「それに」とマキウスは目を逸らした。
「私が子供の頃は、姉上やアマンテ、アガタの姉妹に頼ってばかりいました。……今度は私が頼られたいんです」
 恥ずかしそうに頬を染めるマキウスの姿に、モニカは笑ったのだった。
「私はずっと頼りにしていますよ! マキウス様の事を」

「それに」と、モニカは続けた。
「それって、末っ子ならではの考えですよね」
 モニカがクスクスと笑うと、マキウスはムッとしたようだった。
「そういう貴方には、ご兄弟はいるんですか?」
「はい。『私』には、弟と妹がいました」
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