ハージェント家の天使
 その事故が起こったのが、この近くであり、たまたま近くを通りがかって、事故を目撃した男がいた。それが先程の男であった。
 マキウスはこの男の事情聴取を担当し、ヴィオーラも事情聴取に同行したのだった。

「姉上は、この店の店主であり、加工職人でもある、先程の男を知っているようでした」
 ヴィオーラが男と顔を合わせた際に、何故かヴィオーラは驚いていたようだった。
「姉上によると、値段は高額ですが、店主の腕は確かだそうです。なので、魔法石の加工を、この店に依頼したとの事でした」

 魔法石の加工を扱う者には、ある程度の魔法
 に対する耐性や知識を持っている必要があった。
 その為、扱える職人が限られているという事で、加工代は高いのだった。
「魔法石の加工って高額だったんですね、それなのにお姉様は全額出してくださって……」
 自宅に戻ったら、ヴィオーラに御礼の手紙を書こうとモニカが考えていると、店の奥から男が戻ってきた。

「待たせたな。これが依頼された品だ」
 マキウスは男がカウンターに差し出したモノを確認すると、満足そうに頷いた。
「こちらが想像した以上の出来です。……素晴らしい」
「そんな慇懃に言われても、なあ……?」
 男は困ったようにモニカを見つめてきたが、モニカは苦笑しか出来なかった。
 そんな男に構わずに、マキウスは懐から革袋を出すと、カウンターを滑らせて男に渡した。
「これが加工代になります。確認をお願いします」
 マキウスが渡してきた革袋から金を出して数えた男は、飛び上がらんばかりに驚いたのだった。
「おいおい! こいつはいくらなんでも多すぎだろ! こんなには受け取れないぜ」
「あんた何かしたのか?」と、聞かれたマキウスは首を振った。
「姉……。ブーゲンビリア侯爵家から預かってきたままです。あちらから聞いた話では、明確な代金を提示されなかったのと、時間をかけさせたお詫びも入れて、多く用意したとの事でした」
「そんなら多い分、多少ネコババしてもよかったのによ。騎士サマは高潔なんだな」
「それは、まあ……。騎士ですので」
 マキウスは澄ました顔で返すと、モニカにだけ聞こえるくらいの小声で呟いたのだった。
「盗もうものなら、私が姉上にどんな目に遭わされる事か……」
「……マキウス様も、大変ですね」
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