ハージェント家の天使
 住民達も怪我をした者の手当や、強盗達が荒らした街の片付けに戻ったようだった。
 その場には、モニカ達と子供達、そしてモニカを助けてくれた金髪の男しか残っていなかったのだった。

 モニカは金髪の男に近づいた。
「先程は助けて頂き、ありがとうございました。あの、お怪我はありませんか?」
 住民達を見ていた男性は、モニカが声を掛けると振り返ったのだった。
「ああ。心配無用だ。お気遣いに感謝する」
 男はモニカやマキウスより、歳上の人間に見えた。
 マキウスに負けず劣らずの端正な顔立ちに、澄んだ海の様な深い青色の瞳、モニカの金髪よりも濃い色をした長い金髪を背中に流していた。
 銀色の甲冑で全身を包み、何かの鳥の絵が書かれた銀色の盾を持っていたのだった。
 男はモニカを見ると、大きく目を見開いたのだった。

「モニカ?」
「えっ?」
「モニカだな! 元気そうで良かった! 会いたかった!」
 そうして、男はモニカを抱きしめたのだった。
「えっと、あの……」
「すっかり男爵夫人らしくなって、最初見た時は誰だかわからなかった。最近まで怪我をして意識を失っていたと聞いたが、変わりはないか?」
「えっと、はい」
 男は「良かった」と喜んでいた。
 その隙にモニカは、この男を思い出そうとしていたのだった。

(この人誰だっけ? 私の知り合いではないような……)
 そもそも、この世界にモニカの知り合いは少ない。
 更に人間の知り合いはいないはず。
 となると、「モニカ」の知り合いの可能性が高い。
(『モニカ』さんの知り合いなら……)
 モニカになった日に、「モニカ」から引き継いだ記憶ーー通称・モニカ備忘録の中に、答えはあるかもしれない。
 モニカ備忘録を思い浮かべたモニカは、すぐに該当する人物を見つけたのだった。

「……お兄ちゃん?」

 モニカが呟くと、男は笑顔を浮かべた。
「ああ。そうだ! いつもと違って、反応がないから不安になったぞ!」
 モニカはギクリとした。
「そ、そうだった? そういうつもりは無かったんだけどな……」
「ああ、そうだとも!」
 その時、静かな怒り声が辺りに響いた。

「……いつまで抱き合っているんですか?」

「ま、マキウス様!?」
 マキウスは男からモニカを引き離すと、後ろに庇った。
「私の妻に何をしているんですか?」
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