ハージェント家の天使
 モニカを引き離された男は、何度も瞬きをしていたが、ようやく合点がいったのか笑ったのだった。
「妹の旦那殿ですか。これは失礼しました」
 男は娘に手を当てると、優雅に一礼したのだった。

「ご挨拶が遅くなりました。
 私の名前は、リュドヴィックと言います。
 どうぞ、リュドとお呼び下さい。
 妹がお世話になっています」

 男は、リュドは、顔を上げると、敵意のないように笑みを浮かべたのだった。

「モニカの兄上ですか。これは失礼をしました。私はモニカの夫のマキウス・ハージェントです」
 リュドの正体を知ったマキウスは、ようやく肩の力を抜いたようだった。
 リュドが差し出してきた手を、マキウスは握ったのだった。

 マキウスは子供達を帰すと、モニカとリュドを連れて貧民街を後にした。
「ところで、お兄ちゃんは、どうして貧民街にいたの?」
 モニカを挟む様に歩いていた一向は、モニカの左側のリュドを振り返ったのだった。
「私は待ち合わせをしていたのだが、道に迷ってしまってな。そうしたら、何やら騒ぎが起こった声が聞こえてきたから、駆けつけたんだ」
「待ち合わせですか?」
 モニカの右側を歩いていたマキウスは、怪訝な顔をしたのだった。
「はい。私がこの国に滞在する間の身元保証人になって頂く方です。確か……」
 リュドは思い出そうとして、上を向いた。

「侯爵家の方で、女性が家督を継いだと言っていたかな……? 騎士団で士官をされているとか……」
 それを聞いたモニカとマキウスは、顔を見合わせた。
 やがて、マキウスは苦い顔をしたのだった。
「……この国の騎士団で、士官をしている女性侯爵は1人しかいません」
 それは、モニカとマキウスのごく身近な人である。

< 114 / 166 >

この作品をシェア

pagetop