ハージェント家の天使

リュドヴィック

 モニカ達がヴィオーラが住んでいるブーゲンビリア侯爵家にやって来ると、どこか騒がしい様子であった。
「失礼。当主のヴィオーラ姉上に取り次いで頂きたいのですが……」
 マキウスの声にやって来たのは、白色のフワフワの毛が生えた耳を立てて、金色の髪を頭の上で2つに結んだ女性メイドであった。

「アガタか」
「お久しぶりです。マキウス様」
 アガタは金色の瞳を嬉しそうに細めた。
 そうして、モニカとリュドに気づくと、マキウスに問いかけたのだった。
「マキウス様、そちらは奥様ですか?」
「ええ。妻のモニカと、モニカの兄上のリュドヴィック殿です」
 モニカはアガタに一礼したのだった。
「初めまして。アガタさん。モニカ・ハージェントです」
「私はリュドヴィックと言います」
 アガタは顔を綻ばせたのだった。
「初めまして。モニカ様。私はアガタと申します。母と姉から噂は聞いております」
 アガタはペルラと同じ色の瞳を輝かせたのだった。
 次いでリュドに視線を移した。
「リュドヴィック様ですね。ヴィオーラ様が探していました。待ち合わせの場所に来ないとの事で……。今、ヴィオーラ様を呼んで来ますね!」
 そうして、ペルラは「ヴィオーラ様!」とパタパタと足音を立てながら、階上へ消えて行ったのだった。
「その、私達はここに居たままでいいのでしょうか?」
「さあ……」
 案内される事なく、その場に取り残されたモニカとマキウスは顔を見合わせたのだった。

 それから、途方に暮れていたモニカ達に気づいた他の使用人によって、3人は客間に案内された。
 少しして、パタパタと足音を立てながら客間の扉が勢いよく開かれたのだった。
「マキウス! モニカさん!」
「姉上!」
「お姉様!」
 客間に駆け込んで来たヴィオーラは、どこかに出掛けようとしていたのか、外出着であった。
 モニカに抱き着くと、安堵の息をついた。
「良かった……! 騎士団から貧民街で強盗に襲われていたと聞いたので……。マキウスの事だから大丈夫だとは思っていましたが……。無事で本当に良かったです」
 ヴィオーラは身体を離すと、安心したように、泣きそうな顔で笑ったのだった。
「お姉様、すみません。ご心配をお掛けして……」
「いえ。いいのですよ。それよりもリュドヴィック様をお連れ頂き、ありがとうございます。これから、探しに行こうと思っていました」

 ヴィオーラはリュドを迎えに行かせた使用人から、待ち合わせ場所に現れなかったと聞いて行方を探していた。
 その最中に、モニカ達が貧民街で強盗に襲われていたと聞いて、ヴィオーラは心配していたのだった。

「それでは、姉上が話していた急な来客というのは、リュド殿の事だったんですね」
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