ハージェント家の天使
「ありがとうございます。なら、お言葉に甘えさせて頂きます。私の事も、どうかリュドと呼んで下さい。ヴィオーラ殿、マキウス殿」
 リュドは笑ったのだった。

「モニ……」
「マキウス様!」
 寝室の扉を開けたマキウスに、モニカが飛びついた。
「待っていました! さあ、こちらへ!」
 モニカはマキウスの腕をグイグイ引っ張って、ソファーに連れて行ったのだった。

 リュドがヴィオーラの元に滞在し始めてから、数日が経過した。
 夜遅く仕事から帰宅したマキウスは、使用人から「モニカ様から大事な話があるので、いつもより早めに寝室に来て欲しい」という伝言を預かったのだった。
 マキウスはいつもより早く寝支度を済ませると、寝室へとやって来たのだった。

「どうしましたか? そんなに慌てて……」
「お兄ちゃんから手紙が届いたんです! 明日、遊びに来たいと!」
 マキウスと並んでソファーに座ったモニカは、テーブルに広げていた手紙をマキウスに渡したのだった。
「私が読んでもいいのですか?」
 モニカが頷くと、マキウスは手紙にざっと目を通した。
 そこには、ようやくヴィオーラの元での生活が落ち着いたので、モニカとゆっくり話したい事や、ニコラに会ってみたい事が書かれていたのだった。

「なるほど……。私は仕事でいませんが、私や使用人達に気兼ねせずに、兄妹水入らず、有意義な時間を過ごして下さい」
「それはそうなんですが……。けれども、どうしましょう!」
 マキウスは瞬きをした。
「どうとは、一体……?」
「私はリュドさんが知っている『モニカ』ではありません! だから、リュドさんの事を何も知らないのに、何をしたらいいのか……」

 モニカは困惑していた。
 貧民街で会った時は、何とか「モニカ備忘録」からリュドを見つけられた。
 それでも、リュドがどういう人物なのか、またリュドが知っている「モニカ」までは見つけられなかった。
 だから、今のモニカにとって、リュドは兄ではなく、初対面の男性でしかなかったのだった。

「それは……。そうでしたね」
「明日、リュドさんと会っても、どうしたらいいのかわからないんです……。なので、マキウス様が知っているリュドさんの情報を、私に教えて下さい!」
「と、言いましても……」
 マキウスは腕を組んで、考え込んだ。
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