ハージェント家の天使
 その時の功績を称え、両国の国王は褒美として、リュドの望みを叶える事にした。
 そこでリュドが望んだのか、「妹のモニカの幸せ」であった。
 それは、同時期に、たまたま自分達を育て、世話をしていた老騎士が亡くなった事で、モニカが塞ぎ込んでいたからでもあった。

 これまで老騎士やリュドを支えてくれた大切な妹。
 これからは、幸せになって欲しい。
 その願いを込めて、リュドは国王達に望みを伝えた。
 その結果、リュドに与えられたのが、レコウユスへの「花嫁」に、モニカを加える事であったのだった。

「私とお兄ちゃんは、実の兄妹じゃなかったんですね」
 モニカは目を丸くした。
 モニカとリュドは見た目が似通っていたので、実の兄妹だと思っていたのだった。
「私も義兄妹と聞いていたので、実際にリュド殿に会った時は驚きました。姉上も同じ感想を抱いたそうです」
「そういえば、お姉様とお兄ちゃんって、一緒に戦った事があったんですね! という事は、2人は知り合いだったのでしょうか?」
「当時は知り合いではなかったようですが、お互いに名前は知っていたそうですよ。この犯罪組織との戦いについては、姉上が調べてくれました」

 犯罪組織との戦いの時、ヴィオーラはまだ士官ではなく一騎士であり、主な任務は後方支援であった。
 他の女性騎士と共に、前線で戦う騎士達の物資の調達や怪我人の手当てをしていた。
 しかし、ある戦いで犯罪組織に隙を突かれ、ヴィオーラ達が支援していた騎士達の一部が大打撃を受けてしまった。
 彼らが手当てを受けている間、代わりに指揮を執って前線で戦ったのが、ヴィオーラだったらしい。
 ヴィオーラはこの時の功績を称えられて、後に女性初の士官となったのだった。

「また、リュド殿はこの戦いまでは、ガランツスの騎士団に所属していたそうです。貧民街で会った時に持っていた盾を覚えていますか?」
「はい。何か鳥らしき絵が描いてあったような……?」
「あそこに描かれていたのは、ガランツスの騎士団の紋章です。この国では、鷹《ファルコ》という名前の鳥です。ガランツスでは、フォーコンと呼ばれていたと思います」
「そうなんですね!」
 ちなみに、マキウスやヴィオーラが所属するレコウユスの騎士団の紋章には、狼が描かれているらしい。
「強き者であれ。されど知恵と友愛を忘れるべからず」という意味らしい。

「リュド殿はモニカをこの国に送り届けた後、騎士団を退団して世界を旅していたそうです。自らの見物を広げ、腕を磨く為に。
 時には、レコウユスとガランツスを繋ぐ騎士としての役割も、果たしていたと」
 階段から落ちて意識不明になる前のモニカは、頻繁にリュドに手紙を書いていたらしい。
 モニカが書いた手紙の内容までは誰も知らず、またリュドからの手紙の返信もなかったらしい。

「じゃあ、もしかしたら、今回は私が怪我した事を心配して来たんじゃ……?」
「その可能性は高いと思います。どこかでモニカが階段から落ちた話を聞いてきたのかもしれません」
 意識不明から目覚めたモニカは、「モニカ」に兄がいた事を知らなかった。
 これまで忙しかったのを理由に、「モニカ」について考えていなかった。
 御國に兄妹や友人や大切な思い出があるように、「モニカ」にだってあるはずなのだ。

(この機会に知ろうかな)
 これまで、「モニカ」が歩んできた過去について。
 もしかしたら、その中に御國がモニカになった理由もわかるかもしれない。
 それが、「モニカ」を託された、今のモニカの役割でもあるのだろうから。

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