ハージェント家の天使
「一時期はたくさん便りを送ってくれたのに、最近はすっかり来なくなって……。風の便りで聞いたところによると、階段から落ちて瀕死の重傷だったそうじゃないか。心配したぞ」
「そうだったよね……。ごめんなさい。心配をかけて」
 予想通りのリュドの言葉に、モニカは肩を落とたのだった。
「いや。無事ならいいんだ。その後、身体の調子はどうだ? まだ痛むところはないか?」
「うん。大丈夫だよ」

 リュドがモニカに手を伸ばしてきた。
 モニカがギュッと目を閉じて身体を強張らせていると、その頭を撫でた。
 頭を触られた時に、モニカの頭の中に何か「閃いたもの」があったのだった。
(これは……)
 ぼんやりとだが、子供の頃のモニカがリュドに頭を撫でられて、喜んでいる場面であった。昔から褒められたり、心配をかけたりする度に、リュドに頭を撫でられていたらしい。
 モニカの胸の中が温かくなった事から、この時の「モニカ」も頭を撫でられて嬉しかったらしい。

「せっかくだ。会わなかった間の話を聞かせて欲しい」
「勿論、いいよ!」
 モニカはニコラをアマンテに預けると、ティカ達メイドが用意してくれたお茶の席にリュドを案内したのだった。
 モニカは屋敷での生活や、マキウス、ニコラの話、アマンテやティカ達使用人達の話をした。
 と言っても、モニカが目覚めてからの話が主であり、「モニカ」の話はモニカ備忘録から拾って話しているので、曖昧な話し方になってしまったが。

 モニカの話を聞いたリュドは、安心したように笑ったのだった。
「そうだったか。安心したぞ」
「うん。毎日楽しいよ」
「生まれ故郷から離れ、知る者も、頼る者も居ない中での結婚と出産で、さぞ心細い思いをしているのではないかと心配したが……。楽しそうなら良かった」
 モニカは目を伏せた。
「心細くないと言ったら嘘になるけれども……」

 この世界に来たばかりの頃は、勝手が分からず、使用人を始めとしてマキウスからも距離を置かれていて、モニカは心細い思いをした。
 心を慰めてくれるのは、無垢な笑顔を向けてくれるニコラだけだった。
 そんなニコラを守りたいと思ったからこそ、モニカはニコラの母親になりたいと思ったのだった。

「でも、マキウス様を始めとする使用人の皆さんが優しくしてくれるの。今は心細くない……。だから、私は大丈夫」
「そうか……」
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