ハージェント家の天使

モニカになれない

 夜、マキウスがいつものように寝室にやってくると、既に寝室内は暗くなっていた。
 外からの明かりを頼りにベッドに目を凝らすと、1人分の膨らみがあった。
(もう、休んだのでしょうか……?)
 マキウスは訝しんだのだった。

 リュドが帰ってからモニカの様子がおかしい事は、帰宅時にアマンテやペルラから聞かされていた。
 途中まで、モニカ達兄妹の再会の場に立ち会っていたティカやアマンテからは、特に異常は無かったと聞いていたのだが。
(それとも、疲れて寝てしまったのでしょうか?)
 リュドとどんな話をしたのか聞きたかったマキウスだが、当のモニカが疲れているのなら無理強いはしたくなかった。
 魔法石に魔力の補充だけしたら、モニカの邪魔をしないように自分も休もうと、マキウスがそっとベッドに入った時だった。

「ん……」
「モニカ? すみません。起こしてしまいましたか?」
 マキウスはモニカを起こしてしまったかと、謝った時だった。
「……マキウス様? いつの間に帰って来たんですか?」
「少し前です。疲れているかと思ったので起こさなくていいと、使用人達に伝えたのです」
「すみません。気遣って頂いて……」
 マキウスはベッド脇の灯りだけを点けた。
「リュド殿との時間はどうでした……」
「か?」と、言いながらモニカの顔を見たマキウスは、ハッとして言葉を飲み込んだのだった。

「……モニカ? まさか、泣いているのですか?」
 ベッド脇の淡い灯りに照らされたモニカの目は、赤く腫れ、頬には涙の跡が残っていたのだった。
「あれ? 拭いたはずなのに、残っていましたか?」
 ゴシゴシと手の甲で顔を拭くモニカの手を、マキウスは止めた。
「……リュド殿と何かありましたか?」
 今のモニカが、ここまで泣いているのを見るのは始めてだった。
 自然とマキウスの心臓は早くなった。
「何もありません。何も無かったんです……」
「なら、どうして貴方は泣いているのですか?」
「それは……」
 マキウスの眉間が険しくなった。
「やはりリュド殿と何かあったのではないですか? 義理の兄とはいえ、妻を泣かせたのは許しません。今から私が抗議を……」

 ベッドから立ち上がりかけたマキウスを、モニカは慌てて掴んだ。
「違うんです! お兄ちゃんは何も悪くないんです!」
「なら、どうして貴方は泣いているのですか?」
 マキウスは自分の腕を掴むモニカをじっと見つめた。
 すると、みるみる内にモニカの青色の両目に、涙が溢れて来たのだった。

「やっぱり、私はモニカじゃないんだと……。モニカになれないんだって」

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