ハージェント家の天使
 モニカは大きく目を見開いた。
 そうして、マキウスはモニカの頬を流れる涙に口づけたのだった。

 マキウスはモニカの両頬を流れる涙を吸うと、顔を離したのだった。
「貴方がモニカを託されたのは、『モニカ』になる為ではありません」
「これはあくまで私の想像ですが」とマキウスは前置きをしてから続けた。

「貴方がモニカを託され、貴方がモニカになったのは、『モニカ』の代わりに、みんなを見守って欲しいからではないでしょうか」

 マキウスが「モニカ」と話した回数は少ない。
 マキウスが「モニカ」を知る前に、「モニカ」はいなくなってしまった。
 だから、「モニカ」がどういう人物なのか、マキウスはほとんど知らない。

「他の誰でもない、貴方がモニカになったのは、貴方でなければいけない理由があったと思います。偶然にしろ、必然にしろ」
「私でなければいけない理由……?」
 モニカは首を振った。
「いいえ。そんな理由はありません。私にはーー生前の私には、結婚した事も無ければ、子育ての経験もありません。それ以前に、男性と付き合った事すらありません!」
 もし、モニカの願いが夫であるマキウスと、娘のニコラにあるならば、結婚も子育ても経験した事が無い生前の御國よりも、もっと適した人がいるはずだろう。
 モニカが首を振っていると、マキウスは静かに告げたのだった。

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