ハージェント家の天使
「ですが、私は、モニカが貴方でなければ、ここまで貴方を気にかけなかった。……愛さなかったでしょう」

「マキウス様?」
 モニカが見つめると、マキウスは胸元をギュッと握りしめた。

「貴方は、私と姉上の関係を取り戻してくれました。それは『モニカ』ではなく、貴方のおかげです」
「それに」とマキウスは続けた。
「あの日、貴方がモニカになった日に、私は言ったはずです。『貴方がモニカになるように無理強いはしません』と」
「そうですが……」
 マキウスはモニカを抱きしめた。

「貴方は、貴方のままでいて下さい。『モニカ』にならなくていい。貴方だけの『モニカ』でいて欲しいんです」

「マキウス様、私は……」
「……私は『モニカ』を愛していました。けれども、今の貴方も同じくらいに……。いえ、それ以上に愛しているんです」
 モニカは大きく目を見開いた。
 マキウスはモニカを抱く手に力を入れたのだった。

「私はこれまで何度も、大切な想いを胸に秘めすぎていた所為で、大切なモノを失ってきました……。もう、後悔はしたくないのです……」

 マキウスは自分の大切な想いを何も言わなかった所為で、大切な家族と引き離された。
 最初に愛した妻を、理解出来ないまま失ってしまった。

 もし、自分の気持ちをちゃんと伝えていたら、姉と離ればなれにならなかったかもしれない。
 もしかしたら、「モニカ」は死ななかったかもしれない。

 もう後悔はしたくなかった。
 だから、今度こそ、大切な想いを伝えたいと思ったのだった。
 失ってからでは遅いと、気づいたのだからーー。

「こんな事を『モニカ』が知ったら、私は『モニカ』に怒られますね。『モニカ』より貴方を愛しているなどと……」
「マキウス様、私は……」
 モニカを抱くマキウスの力は、緩まる事は無かった。
「遠回しに『モニカ』が死んで良かったと、言っているのも同じですからね。『モニカ』が階段から落ちなければ、貴方と出会わなかった訳ですから」
 マキウスは苦笑した。
 愛している女性に対して、何て事を言っているのだろう。

「わ、私も……」と、モニカはマキウスに抱きつきながら、恥ずかしそうに続けた。
「私も、マキウス様と出会えて良かったです。……それなら、階段から落ちて死んでも良かったと思っています」
< 127 / 166 >

この作品をシェア

pagetop