ハージェント家の天使
「それは、どうして……?」
 御國が目を大きく見開いて、旦那様を見つめると旦那様は小さく笑ったのだった。
「私は大切な妻と……。いえ、まだ正式な婚姻はしていないので婚約者ですね。と、ニコラの母親を失わなくて良かったと」
「それに」と旦那様は空いている手で、御國の手を撫でながら続けた。

「貴方の様な素敵な方を、失わなくて良かったと思っています」

「だ、旦那様……」
 御國が呼び掛けると、旦那様は人差し指で御國の唇に軽く触れたのだった。
「旦那様、ではなく。私の事は名前で呼んで下さい」
「名前ですか? でも、私は旦那様の名前を知らなくて……」
 御國が首を竦めると、旦那様は「そうでしたね」と苦笑したのだった。
「私の名前は、マキウス。マキウス・ハージェントです。ニコラの父親にして、貴方の将来の夫です」
「マキウス様……」
 御國が呼び掛けると、旦那様は、マキウスは安心したように、嬉しそうに、微笑んだのだった。
「ようやく、呼んでくれましたね……」
 その笑顔に、御國の胸はドキッと大きく音を立てたのだった。

「私は貴方にモニカになるように無理強いはしません。ここが嫌ならば出て行って頂いて構いません」
「そんな事……」
「ただ、もし、貴方が私の妻として、ここに残ってくれる事を選んでくれるのならば。私は貴方に2つ贈り物を与えられます」
 マキウスは人差し指を立てた。

「先ず1つ目は、居場所。貴方が安心してこの世界で暮らせるように、居場所を提供できます。勿論、生活に困るような事はさせません」
 続いて、マキウスは中指も立てた。
「2つ目。貴方をニコラ共々、幸せにする事を。私が2人を守ります。貴方達の笑顔と、貴方の慈愛を守る為に」
「さあ」と答えを待つマキウスが立てた2本の指と向かい合わせになるように、御國は自らの人差し指と中指の2本を立てた。
「これは、一体……?」
「私からも、マキウス様に贈れる物は2つだけでした」
「すぐに思いつくものは」と御國は苦笑して、マキウスが立てた2本の指先に、自分が立てた2本の指先をそっとくっつけた。
 目を見開くマキウスに、御國はすうっと息を吸うと口を開く。

「1つ目。ニコラの母親になる事を。ニコラが幸せになれるように、健やかに成長出来るように、私が元の世界で得た知識をニコラとマキウス様に提供します」

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