ハージェント家の天使
 その時には、ヴィオーラは騎士団に所属しており、騎士団初の女性士官になっていた。
 ヴィオーラは母親の息がかかった懇意だった使用人を全員解雇すると、地方の騎士団に所属していたマキウスを自分の副官として王都に引き抜いたのだった。
 だが、そのまま引き抜くと良くない噂ーー特にヴィオーラの母親の生家であるロードデンドロン公爵家から、が立つかもしれない。
 そう考えたヴィオーラは、マキウスにユマン族からやってくる女性ーーモニカ、を妻として娶るように条件を出した。
 そうして、ヴィオーラはマキウスと再会したのだが。

「勿論、ただモニカさんを利用した訳ではありません。マキウスに結婚を勧めたのは、姉としての老婆心もあります。仕事ばかりで、弟が婚期を逃す事を心配した、ね」
「わかります! 実の弟妹が結婚しないでいると、姉は不安ですし、お節介も焼きたくなりますよね!」
 モニカは御國だった頃を思い出していた。
 御國にはすぐ下に弟妹が居たのだが、どちらも遊んでばかりいて、御國は弟妹の将来を不安に思っていたものだった。
 もう会う事は叶わないが、元気に過ごしている事を願っている。

「そうです! それに、私が不甲斐ないばかりに、マキウスには幼少期に辛い思いをさせてしまいました」
 ヴィオーラとマキウスの母親同士の確執の事を指しているのだろう。
 モニカは首を降った。
「それは違うと思います。ヴィオーラ様もその時は子供だったんですよね? それならその時に出来た事は限られていたと思います」
「そう、でしょうか……?」
「そうですよ! それに、マキウス様も子供の時の様な仲に戻りたいと願っていました」
 ヴィオーラはハッと顔を上げたが、「マキウス自身もそれを望んでくれているのなら嬉しい限りです」と続けたのだった。

「互いに大人になり、それぞれ異なる身分の家督を継ぎ、階級も異なる身ではありますが、私にとってマキウスは血を分けた姉弟です。両親が亡き今となっては、私にとっての唯一の家族でもありますからね」

 ヴィオーラのため息が、そっと溢れたのだった。
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