ハージェント家の天使
「ええ。マキウスはどうですか? モニカさんから見て」
 モニカはマキウスの普段の様子を思い浮かべながら答えた。
「そうですね……。素晴らしい旦那様だと思いますよ。顔や性格も良いですし……。仕事だけではなく、家庭やニコラのーー娘の育児にも協力的で」
 この世界でも、夫は家庭や育児を妻に任せきりで、仕事にばかり力を入れているらしい。
 ペルラやアマンテから見たら、マキウスはかなり協力的だという事だった。

「それは当然です。その辺りはマキウスが子供の頃に、私がしっかりと躾けましたからね」
 どうやら、ヴィオーラとマキウスの父親である当時のブーゲンビリア侯爵は正に家庭を顧みない典型的な夫だったらしい。
「父が家庭を放っていた所為で、私とマキウスの母親の仲は酷くなったようなものですからね。全く、父ときたら……」
「はあ、それは大変でしたね……」
 力説するヴィオーラにモニカは苦笑したのだった。
 すると、ヴィオーラは「そうではなく」と首を振った。

「マキウスは、私の事をどう言っていますか?」
「ヴィオーラ様の事ですか?」
 モニカは天井を見上げると、マキウスとの会話を思い出していた。
「確か、子供の頃に屋敷を抜け出して大天使像がある広場まで行ってみたり、お母さんに秘密でお菓子を分け合って食べたり、アマンテさんやアガタさんと遊んだ、という話は聞きました」
 モニカの話を聞くと、ヴィオーラは「そうですか」と肩を落としたのだった。
 心なしか、ヴィオーラの黒色の耳まで垂れているような気がした。
 その様子に、モニカは「もしかして」とずっと気になっていた事を訊ねたのだった。
「マキウス様とヴィオーラ様は、仲が悪いんですか?」
 ヴィオーラは小さく頷いたのだった。

「私の母が亡くなった後、私はマキウスを王都に呼び戻しました。昔の仲を取り戻したくて。けれども、再会したマキウスは昔とは別人になっていたのです」
 ヴィオーラによると、マキウスは母親が亡くなった後、地方にあった母親の生家であるハージェント男爵家に帰された。
 マキウスを疎んでいたヴィオーラの母親によるものらしい。
 ヴィオーラは何度かマキウスと連絡を取ろうとしたが、母親がつけた使用人の監視が厳しくて手紙を書く事さえ出来なかった。

 そうして、今から2年程前にヴィオーラの母親が亡くなった。
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