ハージェント家の天使
 御國だった頃に住んでいた世界と、マキウスと共に住んでいる世界は、食文化がかなり似ていた。
 なので、パンケーキは何らかの理由があって、食事に出てこないだけかと思っていたが、そもそもパンケーキ自体が存在していなかったらしい。
 もしかしたら、パンケーキのように、他にも存在していない料理や食材もあるのかもしれない。

「じゃあ、せっかくなので食べてみて下さい! 美味しいですよ!」
 モニカはかつて食べた事があったので、見た目だけではなく、味も再現出来ていた。
 ただ、この夢の中で、どこまでマキウスと感覚を共有出来るかはわからない。
 でも、マキウスにも味わって欲しかった。
 モニカがこれまで、どういう世界で生きていたかを。

「では、モニカの言葉に甘えて」
 マキウスはモニカの真似をしながら、見よう見真似でパンケーキを切り分けて食べた。
「ど、どうですか……?」
 モニカが恐る恐る聞くと、マキウスは目を輝かせたのだった。
「これは……! これまで、こんなに美味しいものをこれまで食べた事がありません」
 マキウスは次々にパンケーキを切り分けると、食べていったのだった。

 ふと、マキウスはフォークを止めると、モニカを疑うように見つめた。
「ところで、何故、私が甘いものが好きなのを知っているのですか?」
「知っているといいますか……。マキウス様を見ていて、気がついたんです」

 モニカがマキウスと生活を共にしていて、いくつか気づいた事がある。
 癖なのか、好みなのか、こだわりなのか、時にはモニカが目を見張るものがあった。
 その中の1つに、マキウスは食べ物を甘く味付けして食べているところがあった。
 今も、コーヒーに砂糖とミルクを入れて甘くして飲んでいたのだった。

「コーヒーも甘くして飲んでいますよね。ブラックで飲んでいるところは見た事ないような……?」
「そ、それは……」
 マキウスは顔を赤らめて、視線を逸らした。
「本当は、コーヒーは苦手なんです……」
「えっ?」
「女性の前では格好をつけたいから、飲んでいたのです。……特に好きな人の前では」
「そ、そうだったんですね……」
「ええ。コーヒーに限らず、苦いものが苦手です」
 モニカは瞬きをした。
 けれども、ふと気付いて「好きな人の前?」とモニカは繰り返した。
「それって、もしかして……?」
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