ハージェント家の天使
 マキウスに背を向け、足音を忍ばせて歩いていると、声を掛けられたのだった。
「モニカ?」
 マキウスは小声で言うと、身体を起こした。
「マキウス様! すみません、起こしてしまいましたか?」
「いいえ。今、ベッドに戻ったところでした」
 マキウスはモニカより一足先に目覚めると、寝室に戻ったとの事だった。
「今朝は、顔色が良いようですね」
「はい。昨夜は楽しい夢を見たので!」
「そうですね。私も楽しい夢を見ました。貴方と、貴方の世界を歩く夢を」
「お、覚えているんですか!?」
 マキウスは夢の事を覚えていないと、モニカは勝手に思っていたが、どうやら違っていたようだった。

「当たり前です。あのように楽しい夢は、久しぶりに見ました」
「それに」とマキウスはモニカの胸元に手を伸ばしてきた。
「どうやら、夢ではないようです」
「えっ!?」
 モニカがマキウスの腕に視線を落とすと、そこには緑色の宝石ーーペリドットのネックレスがあったのだった。
「あれ!? このネックレスって……」
 慌てるモニカに対して、マキウスは落ち着いているようだった。

「もしかして」
 マキウスはモニカの両腕を掴むと、ネックレスに顔を近づけた。
「ま、マキウス様?」
「そのまま、動かないで下さい」
 前にも聞いたような言葉を言うと、マキウスはペリドットに口づけをしたのだった。
(こ、これって…!)
 魔法石を手に入れた時も、同じ事をやった覚えがあった。
 モニカの心臓は激しく高鳴ったのだった。

「やはり」
 マキウスはペリドットから口を離すと、手に取ったのだった。
「マキウス様?」
「これも、魔法石の一種ですね」
「えっ?」
「ただ、これは守護の石ですね。持ち主を守るだけの」

 マキウスによると、魔法石にもいくつか種類があるらしい。
 モニカが持っているような、魔法石に魔力を宿し自由に使えるもの。
 攻撃や防御など、特定の用途にしか使えないものがあるらしい。
 このペリドットは、持ち主を守ってくれるものらしい。

「ただし、この種類の魔法石は、魔力の補充が必要ない分、使い切ったらそれで終わります。後はただの装飾品でしかありません」
「ああ、使い捨てって事ですか」
 モニカはペリドットを優しく撫でた。
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