その呪いは、苦しみだけではなく。

「美織、早く座りなさい。誠弥くんを待たせないのよ」

 母の荒げた声に、私はイヤリングを触りながら、榊の間に足を一歩踏み入れた。
 挨拶もそこそこに互いの母親達は料理のお品書きを見て、話に花を咲かせている。
 ただ互いの家のリビングへ行って何時間も他愛ない話をしている状況が、ただ料亭に移っただけのこと。
 形や見栄ばかり気にする、この田舎の人間達には呆れてしまう。

「美織ちゃんは、バスガイドのお仕事楽しい?」

 誠弥くんの母親に言われたので、曖昧に頷く。

「おじいちゃんたちの商店街や、慰安旅行だけじゃなくて、小学生のバス旅行でガイドしたりするんでしょう。どう? 子どもって可愛いわよね」

 貴方たち、結婚したら子どもはどうするの?
 話を、子どもの話題に持って行きたいのが分かって、ため息が出そうになった。

「そんな話は、僕たち二人以外には関係ないよ」

 誠弥くんの冷たい言葉に、母親達がお品書きから顔を上げる。
 突き刺さるような拒絶の言葉なのに、誠弥くんは晴れた青空のように優しく微笑んでいる。

「僕たちに普通を押しつけないでくれ。もう僕たちは大人で、誰のお膳立ても煩わしいし、必要ないんだよ」

 お見合いは、あくまでも祖母の顔を立てただけで、この先も親たちの意見を聞く気はない。
 ここできちんと立場を主張してはっきりさせるようだった。
 田舎というものは本当に煩わしい。

 そして誠弥くんのお父さんは亡くなっているので、母親よりも誠弥くんの発言が大きいのも田舎特有であろう。
 なので私は、池を見ながら金魚がいないか探しつつ頷く。

「そう。誠弥くんが言っていることが全て正しいし、私はそれに合わせる」

 なんて寂しくて、虚しいお見合いだろうか。

 頑なな私と誠弥くんは、大人になれずに成長してしまった子どものようだった。

「じゃあ、貴方たち、お見合いの後はどうするの?」

 うちの母が、目を見開く。
 今までお見合いどころか恋愛にすら蓋をして逃げてきた私を、見ている。
 もう少し私が嫌がったり粘ると思っていたに違いない。
 私をどう丸め込もうか、二人で悪知恵を働かせていたに違いない。
 私は母を、見た。
 勘違いしないで、と微笑んで。

 ーーいつまでも引きずるつもりよ。
 ーーいい加減に大人になりなさい。
 ーー恥ずかしくないの。
 ーーアンタの幸せが彼の幸せよ。

 必死で、安っぽい言葉を呪いのようにぶつけてきた母に、微笑む。

「私は」
「そのお見合いは、駄目だっ」
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