その呪いは、苦しみだけではなく。


 暗く気持ちの悪い時間から、急に甘酸っぱい雰囲気へ一転した。
 それは、学生服を着た先日の彼が、顔を真っ赤にして縁側から乗り込んできていたからだ。
 顔を真っ赤にして、肩で大きく息をしながら、私の顔を見て、戸惑っている。

「……何?」
「あんたは、俺と結婚するんだっ」
「ふ、ふふ」

 誠弥くんが吹き出すと、少年は更に顔を真っ赤にさせた。

「笑うなっ。俺だって、何を言っているのかわかんねんだけど、でもお見合いって聞いてから、この料亭をずっと見張っていた」
「ああ、そうね。この田舎でお見合いと言えばここぐらいか」

 うんうんと頷く私と、拳で口を隠し笑いを隠している誠弥くんと、呆然としている母親二人。
 そして眩しいぐらい若い少年は、私を見て顔をくしゃくしゃにしている。

「これは呪いだ。俺はずっと、呪われている」
「大変だね。お祓いしなきゃ。神社なら、ここからバスで三駅先だよ」
「あはは」

 誠弥くんは横を向いて、畳を叩いて笑っている。 私は不思議な気持ちで少年を見る。
 不思議だ。
 全く彼のことは何も思わない。
 懐かしい気持ちも沸かない。
 それなのに、泣きたくなる。
 頑張って偉いね、と抱きしめたくなる。

「真面目に言ってるんだ。俺は、あんたが他の男と結婚するのは耐えられない」
「ぷっ」
「この子、美織ちゃんの知り合い?」

 誠弥くんは一頻り笑った後、そう尋ねてきた。
 なので私はどうしようか、腕を組み考える。

「どう答えよう。違うって言えば、彼は頭がおかしいって判断されてしまう」
「小児科の医師である僕でよければ判断しようか」
「うーん。可哀想だよ」

 私たちが話していると、我慢できなくなったのか少年は私の腕を掴み、立ち上がらせる。
「美織が好きならば、俺から奪えっ」

 そう言って、私の腕を掴んで榊の間から連れ去ろうとする。
 誠弥くんの方へ視線を向けると、彼はまだ優しく笑っている。

「君は、どうする?」

 誠弥くんの問いに、私を連れ去ろうとする少年の、真っ赤な耳を見つめる。

「呪いを解放してくるよ」

 私の返事には、笑ってくれなかった。
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