その呪いは、苦しみだけではなく。

 必死で否定してくれる彼が可愛いので、私はクスクスと一頻り笑った後、道路の向こうにトンネルが見えたので、笑うのを止めた。


「貴方は、誰なの?」


 必死な彼は、言葉を探す。視線を彷徨わせる。
 そしてトンネルに入った後、目を大きく見開きながら私を真っ直ぐ見つめてきた。


「俺は……本多祥吾。高校二年生で、妹がいて、バスケ部で」
「へえ。妹がいるんだねえ」
「よくわからねえんだけど、気付いたら登校する度に、横断歩道の横のガードレールに置かれた花束が大嫌いだった」
「それでそれで」
「お供えされているお菓子とか果物が、俺の好きなもので驚いた」
「ほうほう」

「んで、小学校の時にバス遠足でアンタがバスガイドしてるとき、身体が震えたんだ」

 まあこの田舎には遊ぶ場所がない。遠足で隣の市のテーマパークに行くまではバスガイドが乗っているのは当たり前のことだ。
 そう。

 私たちは一昨日だけじゃなく、昔に一度会っているんだね。


「泣きたくなった。悲しくなった。それでいて、笑ってるアンタを見て抱きしめたくなった」
「ほほう、私が初恋ってことかあ。小学生もたぶらかしてしまう私って魔性の女ねえ」

 ふふっと笑うが、少年は笑ってくれない。
 目をつり上げて、大粒の涙を溜めて、私を見る。

「わかんねえんだ。苦しい。あんたを好きな俺は、本当に俺なのか」
「……」

「抱きしめたい。苦しい。ずっと呪いみたいに俺の全身が叫んでる。アンタが好きだって。でもわかんねえ。一目会ったときから、こんな苦しくなるのが、一目惚れってやつなのか」

 こぼれ落ちた涙を見て、私も胸が締め付けられた。
 そうか。これは私の呪いなんだ。
 最期、意識を手放した後も、私の声は彼に届いていた。届いていたんだね。



『生まれ変わってもまた私を好きになって』
『誰も好きになんてなれないよ』
『ずっと亮くんだけを好きで生きていくよ』


 声が枯れるまで叫び続けた。
 大人たちは子どものおままごとみたいな恋愛だと笑ったけれど、この状況を見てみろ。
 大人が馬鹿にするほど、私たちは愚かな恋愛をしていたのだろうか。
 誰にも私たちを否定することはできなかったでしょう、と。



「祥吾くん、だっけ」


 トンネルを抜けると、澄み渡った青空が、ガードレールの向こうに広がっていた。
 バスは緩やかな坂を上がり、神社へ向かっていく。
 もし亮くんが生きていたら、夏祭りはこのバスに乗って神社へ向かったのだろう。
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