その呪いは、苦しみだけではなく。

 彼は私の呪いの言葉を素直に受け止めて、生まれてきてくれたんだね。
 でも、私が彼の呪いの言葉を生きる糧にしていたのとは逆だ。
 彼は私を見る度に苦しむんだ。

「私は、君を見ても何も思わないの。運命の相手だあっとか胸がキラキラしなかったの」

 彼の涙が、ゆっくりと乾いていく。

「私は亮くんが好きだから。亮くんだけを好きでいてって。他の人を好きにならないでって言われたから」

 姿形が変わった貴方は、亮くんではないのよ。
 貴方は妹が居る、青春真っ盛りの本多祥吾くんなんだよ。

「バス、降りよう。今ならまだ引き返せるよ」

 優しく手を掴む。
 呪いの言葉は、苦しいだけでじゃない。

 どうやって生きていけば良いのか分からない私に、唯一生きる理由をくれたの。
 私は最初で最後の亮くんの恋人だから。
 これほど一所懸命恋をした私を、大人達は否定した。
 勝手に言い寄ってきた男性は鼻で笑った。

 幸せのお裾分けだと、男性を紹介してきた友達からは馬鹿にされた。
 けれど、祥吾くんが私の目の前に現れてくれただけで、私の生きてきた時間は無駄じゃ無かったと証明された。

 亮くんも私と同じぐらい、私を思ってくれてくれたのだから。


「呪いに縛られるのは心地が良いの。でも、君は自由に生きて」

 呪いの言葉から、逃げて良いんだよ。

「君は、本多祥吾として、同じぐらいの年齢の女の子と普通の恋愛をして」


 今度は幸せになってね。
 私は呆然としている少年を抱きしめた。
 亮くんではない。本多祥吾くんを抱きしめたんだ。

「会いに来てくれてありがとう。でももう会いに来ては駄目だからね」


 よしよしと頭を撫でて、背中をポンポンと叩く。
 すると彼は、大声を上げて泣いた。
 バスの運転手が振り返ってくるほど、子どものように大声で泣いている。
 ずっと苦しかったんだろう彼は、私の言葉で呪いがとけてくれたんだろう。
 でも私は、亮くんではないと呪いがとけないので、少年には何も望まなかった。

 ただただ泣く彼を、あやしながら、誠弥くんや親にどんな言い訳を並べようか、それだけを考えているだけだった。
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