その呪いは、苦しみだけではなく。
***
帰りのバスが一時間後だったので、歩いて戻ると料亭にはもう誠弥くんたちは居なかった。
蘭子さんは少し驚いてはいたけれど、少年については何も思うことはないらしい。
少年も一度だけ料亭を見上げたが、それだけで感情は分からなかった。
家に帰り、木の塀をくぐり抜けると、車のボンネットに灰皿を乗せて、煙草を吸っている誠弥くんを見つけた。
「誠弥くん」
「お、帰ってこないかと思ったよ」
「私も、どうするのが正解だったか分からないわ」
誠弥くんの横に並び、ボンネットにもたれかかった。
夕日はもう半分以上、夜に染まっている。
「僕は、亮くんが最期に君にお願いした言葉も、君が亮くんにかけた言葉も全て知っているよ」
「うん。救急車を呼んでくれたのは、誠弥くんだったもんね」
「だから、少年が真っ赤な顔をして現れたとき、感動したんだけどなあ。科学でも証明できない人間の言霊ってやつかあって」
「私は感動しなかったな。やっぱ亮くんは亮くんだけだもの」
私の頑なな言葉に誠弥くんは苦笑して、煙草を灰皿に押しつけた。
「そうか。じゃあ、お見合いはどうする?」
誠弥くんは、余程面白かったのだろう。すがすがしいほどの満面の笑みだ。
「それなんだけど、私」
「おい、美織、狭くて引っかかったっ」
木の塀の壊れた部分で喚いている少年を見て、誠弥くんがライターを落とした。
塀から上半身だけ出して暴れている少年が面白くて笑っていると、誠弥くんは携帯を取りだしてハマった少年を撮っている。
「少年、百七十八センチだんだって」
「それは百五十八センチの美織がやっと入れる隙間にはハマってしまうだろう」
「どうしようか。壊しちゃう?」
「早くしろよ!」