その呪いは、苦しみだけではなく。
「……不変的なものは、ないのね」
誠弥くんとベリベリと木の板を剥がすと、少年はまだご立腹の様子だった。
そして頬には真っ赤な紅葉が浮かんでいる。
「どうしたの? その頬」
「うちの離れに保冷剤があるぞ」
少年は頬をごしごしと抑えながら、唇を尖らせた。
「高校を卒業したら、美織と結婚させろってお前のオヤジに言ったら殴られた」
「ぷっ」
私と誠弥くんが吹き出すと、少年は真っ赤になって怒った。
「笑うなよ。大人の余裕出してんじゃねえよ! こっちは本気なんだよ。美織に惚れたんだ。絶対に結婚するって決めた」
「ふふ。私の意見は聞かないの?」
腫れた頬に触れると、少年は睨み付ける。
「誤魔化して逃げるから、聞かねえよ。どうせ、俺のこと好きになるのによ」
ふんっと鼻息荒く言ってのける少年に、「若いなあ」と誠弥くんも降参した様子。
「医者と結婚だあ? だったら俺は総理大臣ぐらいなれば黙るだろ。お前の両親にもう一回、未来の展望を伝えてくる」
「止めておいた方がいいんじゃないの」
うるせえ、と大きくなった木の塀の穴をくぐり、私の家へ入っていった。
お皿の割れる音と、次は甲高い母親の声が聞こえてくる。
それを保冷剤を持ってきてくれた誠弥くんと二人で笑いながら、見ていた。
「俺とのお見合いは、無かったことにしとこうか」
「おかしいな。ちゃんと少年には諦めるように諭したの。納得したと思ったんだけど、何故かバスから降りても離れてくれなくて」
「こんな頑固な一面もあったんだねえ」
人ごとだと思って楽しそうな誠弥くんの背中を抓ってやりたい。
「彼は亮くんじゃないから、好きになれないでしょ。年齢だって一回り離れてるのよ」
「ふ」
今度は私が鼻で笑われてしまった。
誠弥くんには何もかもお見通しだ。
大人になったふりをしていた。
本当は全く、私たちは大人になりきれていないのに、大人になったふりをしていたに過ぎない。
上手に生きるためには、折り合いをつけないといけない。
祖母の遺言であるお見合いは、最期の人生の分岐点だった。
誠弥くんも私も、ここで上手に諦めることを覚えて、大人のふりをすることが正解だった。
その方が、きっとこれ以上苦しまなくて済んだのに。
「若いなあ」
「それ、止めて。どっと老けてしまうじゃない」
私の言葉に、誠弥くんは楽しそうに笑った。