その呪いは、苦しみだけではなく。
***
「くっそう。痛ぇ。両頬殴られた」
「同じぐらい腫れてるから、殴られたのは気付かれないね」
両頬に保冷剤をくっつけると、少年は私の両手を掴んだ。
「でもこうしないと、美織はあのヤサ男と結婚しないといけなかっただろ」
「別に私、強制的にお見合いしたわけじゃないの。ちゃんと納得しているの」
君には関係ないのよ、と告げると寂しそうに眉をひそめた。
「ちゃんと好きな人と結婚しないと、美織が苦しいだろ」
「私は別に」
「じゃあ、訂正する。俺と結婚して。俺を好きになって」
まるで呪いみたいに、真っ直ぐで温かい言葉だった。
誰も好きにならないで。
俺だけを好きでいて。
彼の言葉は、私の心の中に深く沈んでいる。
まるで呪いのように、私を縛り付けてくれている。生へと。
それなのに、少年は『本多祥吾』として私を好きになったと告げた。
私を見たら苦しいはずなのに、胸が痛むはずなのに。
手放そうとした私自身を好きになったと告げた。
私は彼を、亮くんの代わりにするつもりはない。 きっと少年の中に、亮くんを探してしまう。
だから手放したかったのに、彼は私の呪いよりも強い情熱で手を掴んだ。
離してくれなかったんだ。
彼の呪いは、苦しいだけではない。
決して苦しいだけの十八年間では無かったんだよ。
でも花束はもうガードレールにお供えしなくていいらしい。
呪いも消し飛ばしてくれそうな、純情な少年は私の腕を掴んだまま、身体を屈ませる。
空はすっかり夜の色に染まり、木の塀から外した木の板は、立てかけられ風に当たる度に小さくコトコト音を立てている。
私の呪いの言葉に支配された、可哀想な少年が愛おしい。
近づいてくる顔の意味を理解し、私は静かに目を閉じた。
触れてくる、子どものようなキス。
それに声を出して泣きたくなったのと同時に、甘く胸を締め付けられたのだった。
FIN


