兄とあたし
 あたしは、小学6年になった。
 担任が変わり、全授業体育はなくなったけど、いじめは、相変わらずあった。
 この頃のあたしは、自殺する場所を考えるようになった。
 窓から飛び降りれば、下には、石のオブジェがあって、確実に死ねそうだったけど、誰にも見られない。
 ベランダから、飛び降りれば、みんなに気付かれるけど、木が邪魔で、生き残ってしまう。
 どっちにするか、悩んだ。
 自殺ばかり考えるようになったのは、ニュースのせいもあった。
 朝のニュースは、いじめを苦に自殺した人ばかり、取り上げていたから。
 親は、「死ぬなんて、バカね。」と言ったが、あたしからしたら、勇気ある行動で、英雄のように思えた。
 だから、親の言う、「バカね。」に、ムカついた。
 「(英雄になんてこと言うんだ!)」そう思っていた。
 そんな気持ち、誰も気付かなくて、世間体ばかり考える、親達…。
 祖母に至っては、毎日、包丁を出して、あたしの胸に包丁の先を当てて、脅してきた。
 「学校行かなきゃ、殺す!」
 そう言って、包丁を突きつけられた。
 「(ここで、祖母に殺されたら、何もならない。)
(せめて、みんなの前で死にたい。)」
 そう思って、学校に行った。
 祖母は、包丁を新聞紙に巻き付けて、いつでも刺せるように、後ろから、ついて来ていた。
 元々、限界なのに、もう、どうすればいいのか、分からなかった…。
 そんな時、夢香が、「市立図書館に行こうよ。」と言った。
 あたしは、夢香の言う通り、市立図書館に行ってみた。
 すると、夢香は、薬の本や、医学書や、毒の本を持って来て、熱心に読み、メモを作っていった。
 夢香は、あたしをいじめた人、全員を、殺すつもりだった。
 あたしは、「クラス全員を殺しても、親、親戚は、全員を、殺せない。」と言った。
 あたしの言葉で、夢香は、殺すのを止めた。
 数日後ー。
 叔母と祖母に連れられて、ふれあいセンターに行った。
 この頃になると、あたしは、大人の事が、信じられなくなっていた。
 ふれあいセンターは、かなり広くて、綺麗だった。
 「(ここ、何なんだろ…。)」
 そう思っていたら、名前を呼ばれた。
 「(何で、名前知っているの?)」
 不思議に思いながら、叔母と祖母と、一緒に、相談室に入った。
 入ると、1人のおばさんが、イスに座っていた。
 「どうぞ。」と言われ、あたしと祖母と叔母は座った。
 「(この人、誰なんだろう…。)」
 そう思っていると、祖母達が、話し始めた。
 あたしの親戚は、親も含め、病院などで、自分たちが、あたしの症状を話すのが、当たり前で、あたしには、話させてくれない。
 だから、今回も、同じだと思った。
 すると、おばさんが、祖母と叔母に言った。
 「言いたいことは、分かりますが、私は、えりちゃんと話したいんです。
おばあちゃんと、叔母さんは、出てもらえますか?」
 あたしは、驚いた。
 こんなこと、言われたことなかったから。
 祖母と叔母が、出てから、おばさんは、自己紹介をしてくれた。
 おばさんは、カウンセリングの先生だった。
 「何でも話してくれる?」
 そう言われて、「(話しても、何も変わらないだろう。)」と思いながら、学校での事を話した。
 すると、先生は、誰も言ってくれなかったことを言ってくれた。
 「よく、1人で頑張って耐えたね。
もう大丈夫だよ。
まず、おばあちゃんや、親にしてもらいたいことは、何かある?」
 あたしは、「頑張って耐えた。」と言う言葉に、涙が溢れた。
 泣きじゃくる、あたしに、先生は、「ゆっくりでいいいよ。」と言ってくれた。
 あたしは、本音を言った。
 「無理矢理、学校に行かせないでほしい。」
 先生は、「分かった。」と言った。
 それでも、大人が信じられなかった、あたしは、「(明日になれば、行かされる。)」と思っていた。
 話しが終わると、あたしは、外に出され、今度は、祖母と叔母が、中に入った。
 話しは、長く続いた。
 話しが終わり、出てきた、祖母と叔母は、何も言わず、家に連れ帰ってくれた。
 次の日から、あたしは、学校に行かされることはなかった。
 学校に行かなくなって、数日が経った、ある日。
 家族で、お出かけがなくなったことを、義父に伝えた。
 義父は、「お前のせいだ!」と罵倒された。
 そして、「弟に謝れ!」とまで、言われた。
 あたしは、苦しくなって、部屋に閉じこもり、声を殺して、泣いた。
 「(あたしは、やっぱり、要らない子なんだ。)」と思った。
 学校に行かなくなって、数週間が経った。
 すると、いじめの主犯格の女子2人が、家に来た。
 どうやら、カウンセリングの先生が、担任と話して、担任が、生徒に話したそうだ。
 担任の話しを聞いた、生徒達の中には、泣いていた子もいたらしい。
 「明日からは、いじめない。
だから、明日から、学校に来て。
今までごめん。」
 そう言われ、ケーキを渡された。
 あたしは、信じられなかった。
 「(話だけで、あのいじめが、終わるわけないじゃん。)」と思ったから。
 次の日、学校に無理矢理行かされた。
 祖母が、包丁を持って、後ろからついて来たから。
 あたしは、下駄箱にまで行ったが、帰りたかった。
 すると、クラスのほとんどの子が、下駄箱に来て、クラスに連れて行かれた。
 あたしは、怖かった。
 「(今日は、何されるんだろう…。)」と思っていたから。
 でも、何も起きなかった。
 本当に、いじめは、なくなっていた。
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